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異次元の対策よりも・・・

2023年4月21日

異次元の対策よりも・・・

第45号:2023年4月号

 研修医の頃に、お子さんがいらっしゃる女医さんが定時で医局を後にした後、「夜はどうせ俺たちの仕事だ。」という男性医師たちの心無い声が聞こえてきました。それから10年以上の時を経て、自身が妊娠・出産を経験しました。定期のアレルギー患者さんがたくさんいらしたこと、長く休んでしまうと感覚を取り戻すのに時間がかかってしまうこと、社会と繋がることに自身の生きがいを感じること、4月の入園を逃すと0歳や1歳児で保育園に入ることが当時は困難だったこと、その他勤務先の意向等で、娘が生後4か月の終わりから慣らし

保育を始め、生後5か月と同時に職場復帰しました。当時は、親族から「もう復帰するの?赤ちゃんが可哀そう。」と言われました。

 1歳のお誕生日になるまで時短勤務の制度があったので、定時より1時間早くタイムカードを押していました。その際いつも、「すみません。お先に失礼します。この後よろしくお願いします。」と後ろ髪引かれる思いで病院を後にしていました。きっと私が研修医の頃、定時で帰っていく女医さんも同じ思いだったのだろうと。でも今思えば、病院のれっきとした制度を利用しているだけなのに、どうして謝らなければならなかったのだろうかと疑問に思います。

夜間の授乳で寝不足、朝赤ちゃんの支度と自分の支度をして保育園に送り届けて病院の更衣室に入ると、もう一仕事終えたような感覚になりました。そこから1日懸命に働いているのに、なぜだろうか。そこには、心無い言葉を直接投げかけられないまでも、居心地の悪さを感じていたからだと思います。夜間の救急業務を担えないことに対する罪悪感、それを植え付けられるような周りの評価、認めてもらえない虚しさ、当時はいろんな感情が入り混じっていました。もちろん小児科医の子どもだから病気にならないわけはありません。3-4歳頃までもれなくさまざまな流行りものをもらってきました。家族や親族では都合がつかず、預け先がどうしても見つからない時は、仕事を休まざる負えないこともありました。そんな時もきまって、病院に謝りの電話をいれていました。

 そして今研修医時代から20年以上の時が流れました。働くママが偉いとか、早く復帰したから偉いとかそういうことを言いたいわけではありません。働いている・働いていないに関わらず、子どもを産み育てることは本当に過酷なことなのですから。最近の調査で、Z世代の5割が「子どもをほしくない」と回答していると。その理由はお金の問題以外が大半で、「育てる自信がないから」「子どもが好きではない、苦手だから」「自由がなくなる(自分の時間を制約されたくない)から」が上位3つをしめたそうです。世界を見渡しても、少子化が進んでいる国は女性の家事・育児負担が大きいという特徴があります。親世代の苦労を見てきて、自分たちが将来子どもを産み育てることに希望が持てないというのは、小児科医として非常に悲しく思います。

 政府は「異次元の少子化対策」のたたき台を3月31日に発表しました。個人的には異次元じゃなくてもいいから、若い世代が子供を産み育てることに希望が持て、女性だけに家事や育児の負担を強いるのではなく、産後働く・働かないに関わらず必要な子育てサポートを充分に受けられ、周囲から理解して共感してもらえるような対策をと切に願います。

 異次元じゃなくていい、あたりまえの次元で今一度考える過渡期にきているのではないでしょうか。