のぞみ133号
2024年6月8日
のぞみ133号
第59号:2024年6月号
ゴールデンウィークに東海道新幹線に乗っていると、静岡県で緊急停止しました。その時左窓から大塚製薬の大きな工場が見えたので、後で調べてみると静岡県袋井市という場所でした。新幹線内のアナウンスでは、「車内の緊急停止ボタンが押されましたので、緊急停止しました。」その5分後くらいに、「13号車でお子さんが転倒して怪我をしています。この中に、医師や看護師の方がいらっしゃいましたら、至急13号車までお越しください。」
8号車の通路側に座っていた私は、猛ダッシュで13号車に向かいました。すでに看護師の方が一人いらっしゃいましたが、一番後ろの座席と壁の隙間に横向きでベビーカーが置かれていて、そこに座ってユーチューブを見ていた3歳くらいの女の子が、ベビーカーごと後ろに倒れて、後頭部が3㎝くらいぱっくりと割けて出血していました。
すぐにベビーカーを引っ張り出してデッキまで移動しました。新幹線スタッフの方から手袋を借りて傷口を診ようとしていたら、ちょうど外科の先生もいらして、「このくらいの傷なら、救急外来でもよく診るレベルだから、目的地の駅で降りたら病院に受診して、ホッチキス(のような医療器具)で留めてもらえばいい。」と親御さんに説明していたので、すかさず「小児科医です。先生すぐにナート(傷口を針と糸で縫う)しなくてもいいのですね?緊急性はないですね?」外科の先生は、「大丈夫です。水道水で洗えばいいです。」
私は新幹線スタッフに「緊急性はないので、今すぐ新幹線を走らせてください。」と伝え、新幹線が走り出した後に、ナースさん、他のドクターと共に、ベビーカーの上に座る女の子の頭の傷をペットボトルの水で洗浄し、しばらく圧迫してしっかり止血していることを確認してから、ガーゼを4つ折りにして傷口に当てると、ナースさんはお子さんの髪の毛を、左右上下こよりのように巻いて十字に結び、ガーゼで保護してくれました。さらにテープでとめたところで、一連の処置を見ていた外科のドクターが慣れた手つきで包帯を巻いてくれ、さすがにネット包帯は新幹線にはなかったので、巻いた包帯を固定する目的で子ども用の帽子を被せて処置は終了しました。
所要時間は、わずか7-8分程度だったと思います。たまたまその新幹線に居合わせた医療従事者達が、阿吽の呼吸で団結して処置にあたったことに、とても誇らしい気持ちになりました。その後、「今救護にあたって下さった方々は、お名前と住所をお願いします。」とスタッフに声をかけられましたが、誰一人その場に残らず、何事もなかったかのように各々の席へと戻っていきました。
新幹線は20分程遅れましたが、大幅な影響はなかった模様ですし、お子さんも無事に目的地まで行けたかな、でも座席じゃないところに座るのはさすがに危険だから、親御さんは今後きちんと座席に座らせて欲しいな(きっと懲りたでしょう)とその日の夜はふと考えながら眠りにつきました。
改めて、医療従事者のパワーってすごいなと感慨深い旅でした。