万能薬はない!
第55号:2024年2月号
親御さんにとって都合のいい薬(欲しい薬)を希望されても処方はしていません。薬をもらうこと自体が目的で受診されている方がいらっしゃいます。それならば、ドラッグストアでいいわけです。われわれは、問診をとり診察させていただいた後、今のお子さんの病状をご説明し、その症状を改善するのに繋がると判断すれば、必要最小限にして処方しています。理由として副作用のない薬はないこと、そして飲む必要がなければ自然に治るからです。外用薬も同じです。ヒルドイドは単純な保湿薬ではなく、列記とした皮膚の治療薬であり、「皮脂欠乏性湿疹」という病名をつけて本当に必要な方のみに処方しています。
ウイルスの種類やお子さんの体質の違いによって、治るまでの期間は様々です。咳や鼻汁といった風邪症候群でも、数日以内に改善することもあれば、RSウイルスやインフルエンザウイルスでは気道の炎症が強くなるため、咳が数週間続くことや、コロナウイルスでは数か月続くこともあります。本来人間には、自然治癒力が備わっています。病院を受診して薬を飲めば、魔法のように良くなると期待して、すぐによくならないともっと強い薬が欲しいと翌日に受診され、またいくつものクリニックを転々とされる方もいます。
感染して発症して数日後にピークを迎えて、その後徐々に改善していくものです。高熱が続いたり、呼吸状態が悪化したり、眠れない、食べられない、中耳炎や肺炎、ひどい脱水等が疑われる場合には、診察後に必要に応じて追加の薬を処方したり、場合によっては入院できる施設をご紹介しています。処方の必要がない旨をいくらご説明しても納得していただけず、ひたすらもっと強く効く薬をと希望してくる方は、そもそも医療者の診療を信用していない、もしくは病気は薬ですぐに良くなるはずだと誤解されているのではないでしょうか。
流山市の小児科医の会議で、ある先生は「子どもの病気の9割は自然に治る。」とおっしゃっていました。まさにその通りです。一部の特殊な病気を除いては、自然に治ります。私は診察前に、「診察させて下さい。」とお声掛けをしています。決して一方的に診ているとか治しているなんて思っていません。これまで積み上げてきた知識や技術や経験を元に、改善に向けてあくまでアドバイスをして、みなさんご自身の力でよくなっていくのを、ほんの少し後押ししているにすぎないのです。われわれのアドバイスを聞いて納得し、やってみるかどうかは、ご自身やご家族の問題です。やってみたけれど思うように改善されない場合は、その都度話し合い、再度診察させていただき、新たな一手をご提案してまた実行していただく。この繰り返しです。ただし重症な病気の場合は、先述の通りその場で速やかに対応する必要があります。
何度も病院に来たくないから、すぐになんとかして欲しいから、まだ起こってもいない不安を抱えて、治療が思い通りにならないと一方的に医療者や薬のせいにして「治らない」と文句を言われる方がいます。それでは到底信頼関係を築いていくことはできません。これは医療の世界に限ったことではないと思っています。自分達の問題に対して、自分達でできるケアが他にもっとないのか、しっかり考えたり話し合っているのでしょうか。
万能薬はありません。良くなる力を信じて、お互いに敬意を払い、医療者と信頼関係を築いていきませんか。